法窓小話

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イレギュラー対応の行方

首相が静岡県御前崎市にある浜岡原発についてすべての原子炉を停止するよう中部電力に「要請」しました。

asahi.com(朝日新聞社):浜岡原発の全原子炉停止へ 首相の要請受け入れ - 政治 asahi.com(朝日新聞社):浜岡原発の全原子炉停止へ 首相の要請受け入れ - 政治

技術的な当否については素人の私には判断つきかねますが,政治的な判断としてはやむをえないだろうと思います。その点に関しては,専門的な見地から解説をしている記事等をもう少し目を通してみたいと考えています。


さて,個人的には首相がどのような法的根拠をもって中部電力に原子炉の停止を要請したかの方に興味があるのですが,首相は昨日の記者会見での質疑応答で以下のように述べています。

(記者)
 朝日新聞の坂尻です。
 今、総理がなされた浜岡原発の停止要請なんですけれども、これはどういった法律のどういう根拠に基づく要請であるのかという点と、もしそういう法的な担保がない場合は、この中部電力側が断ってきた場合、総理はどのようにされるおつもりなんでしょうか。

(菅総理)
 この要請に関して、後ほど海江田経済産業大臣から詳しく御報告をさせていただきますけれども、基本的には、私が今日申し上げたのは、中部電力に対する要請であります。法律的にいろいろな規定はありますけれども、指示とか命令という形は、現在の法律制度では決まっておりません。そういった意味で要請をさせていただいたということであります。
 (略)

菅内閣総理大臣記者会見(平成23年5月6日) 菅内閣総理大臣記者会見(平成23年5月6日)より一部抜粋

上記のように特に法律に基づいて指示を出したとか命令を出したわけではないとしています。
「要請」というものが法形式としてどう捉えればいいのかは不明ですが*1,ともかく法律の根拠はないということです。


震災後の政府の対応を見ていると,放射線量の上限を上げるため政令をいじってみたり,法令で対応できないところは要請と言う形*2で事実上の介入をしてみたりと,平時であればもっと慎重に処理すべき対応*3が目立ちました。


このような脱法的な手法を用いての一時しのぎは法治国家としての根幹にかかわるものであり疑問です。


当然のことですが,今回は地震・津波・原発事故という前例のない災害が起きました。そのため,国民の生命,身体,財産等の重大な法益を守る目的で,例外的な措置をとらざるをえないことは,それが法を枉げる結果になろうとも理解することはできます。しかし,行政の手足を法律によって縛っているのは,民主主義的な観点はもちろん,国民の予測可能性を担保し自由な活動を保障するためでもあります。法律に行政ができること,そのための条件・手続が記載されているからこそ,国民は種々の活動に専念することができるのです。


現在の政府の対応は,上記の法律による行政の統制という建前をないがしろにするものです。現代においては専門的知見を有する行政の裁量が大きくならざるをえないのは承知していますが,少なくとも法を乗り越える態度が目立つ今までの対応は,法治国家としては危機的な状況*4にあるといえます。


今回の原発停止に関して言えば,やはり法律に基づいた行政指導や命令をすべきであったと思います。法律上の手続きを踏むことができない事態にあるのならば,事前に関係各所に政府の意向を伝え了承を得ることをするか,それが無理ならば事後に損失補償をする,国民への説明責任を十分に果たすなどの手当てをしていくべきだったのではないでしょうか。「浜岡原子力発電所が運転停止をしたときに、中部電力管内の電力需給バランスが、大きな支障が生じないように、政府としても最大限の対策を講じてまいります」だけでは中身がないと批判されても無理はないと思います。


震災が起きてからもうそろそろ二か月が経とうとしています。
空白期間は長ければ長くなるほど権力の濫用の危険は高くなっていきます。
政府が正常な機能をいち早く回復することを願ってやまないです。




【追記】(2011.5.8)
政府による中部電力に対する要請が行政指導といえるかをこちらの記事で考えてみました。

*1:任意の形をとるという意味では行政指導またはそれに類する法形式なのでしょうか。

*2:例えば,警察がネット上のデマを削除するようネット事業者の業界団体に要請しているケースがあります。

*3:そうでなくとも,今回は法の不備がやたら目につきました。震災関連立法については与野党で協議してさっさとやってもらいたいものです。

*4:自民党政府の時代から政府が法治国家的な対応をしていたかと言われれば疑問符がつくのですが,現在の対応はやはり安易に動いているように思えます。