法窓小話

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塀の内と外

山口地裁、刑務所志願の男に実刑 「社会復帰する気ない」 / 西日本新聞 山口地裁、刑務所志願の男に実刑 「社会復帰する気ない」 / 西日本新聞


この事件をみたとき,オー・ヘンリーの『警官と讃美歌』をふと思い出した(ただし,だいぶ昔に読んだためタイトルは全く失念していた)。


現代の刑務所は,衣食住と人権*1が最低限保障された空間であることから,そこでの待遇が塀の外(いわゆるシャバ)よりも快適(またはだいぶましなもの)に映ることがあるのだろう。そのため,塀の外では自力で生きていくことのできない人が,自己の生活保障の為に犯罪を犯すという,ある意味本末転倒な事件もおきる。上記の記事もそのような事件の一つなのだろう。現代の刑務所は,一部の人にとって,ある種のセーフティネットとして機能している感がある。
しかも,刑期を終えて出所したとしても,社会復帰は容易ではなく(または刑務所が自分の居場所と化してしまい),また刑務所に戻ってしまう。塀の内と外とを行き来するという悪循環である。ろくにセイフティネットを整備せず,刑務所をその代替設備として利用するという,国家による身体をはった悪質なギャグにみえなくもない。

この状態を改善するには,やはり,塀の外のセイフティネットを充実させるしか方法はないのだろうが,こんなギスギスした世の中じゃ,そこまで手がまわらないのかなと思うとため息がでる。


昔,犯罪を繰り返して刑務所に何度も入る高齢者の話*2を聞いたときには,社会に対して軽い絶望を感じたことがあるが,その感覚は今も癒えることはない。


【追記】2011.1.5
先ほど,積読して放置していた浜井浩一氏の著作*3を読み終えたのだが,刑務所の状況や受刑者の更生に関することが分かりやすく載っていて,勉強になった。本書は,ここ数年の(日本や諸外国の)厳罰化志向や犯罪に対する社会不安に対して,統計や実験などから得た知見を基に,厳罰化や「割れ窓理論」等の犯罪対策が必ずしも犯罪抑止につながらないことまたは効果が限定的であること等を明らかにし,刑事政策的見地から,犯罪者を一人の人間としてどう立ち直らせるか,社会が犯罪者とどう向き合うべきかを分かりやすく説くものである。結論先取りになってしまうが,私も,犯罪者に対して,単に厳罰を科すのではなく,刑務所内での処遇もさることながら,出所後社会がどう受容していくかが大事であると考えている。

12月28日の記事では,自ら意図して刑務所へ戻る人について書いたが,本書ではより具体的な事例等を用いて,こうした人々について記載している。本書をお読みいただいた方が良いと思うので,詳細についてはここには書かないが,刑務所が,一部の受刑者にとっての「居場所」や「自己実現の場」になっている現実を,本書を通して改めて知ることができた。

*1:まあ,刑務所内でも受刑者が死傷したりする事件は起きることから,これは建前にすぎない気はするが

*2:刑務所の中は居心地がよく,出所しても未納付であるため国民年金も受給できないため,何度も出所しては微罪を犯し,刑務所に再び入るということを繰り返していたそうだ

*3:『2円で刑務所、5億で執行猶予』光文社新書,2009