法窓小話

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憲法上の義務について(前編)

今回は、昔から気になっていた憲法上の義務の意味について、適当に調べたものをメモしてみます。

資料不足・勉強不足の感が否めないですが、ご愛嬌ということで・・・

0.憲法と義務の話

大前提の話ですが、近代以降に制定された憲法は、「専断的な権力を制限して広く国民の権利を保障するという立憲主義の思想に基づく」*1ものです(理念的には)。そのため、憲法は、人に保障されている権利規定と国家権力を制約するような仕組みに関する規定で主に構成されています。
そして、この考えを前提にすると、国家に対して「人の自由に干渉するなかれ」とか「人並みの自由が享受できるよう保障せよ」などという憲法に、「国民は●●しなければならない」という義務規定が書かれているのは不自然な感じがします。

では、憲法と義務規定の関係をどう考えればいいのでしょうか。

国民の権利を保障し、国家権力を制約しようと考えるならば、憲法上の義務規定は骨抜きに、または義務規定自体の廃止も当然という考えになるかもしれません。
逆に、権利行使に伴う責任や共同体に対する義務を強調すれば、憲法の義務規定は法的義務(違反すれば、罰則とか)に、そしてさらなる義務規定の追加という考えになるかもしれません。

ちなみに義務規定に関して学者の議論はすこぶる低調です(笑)。
国民の義務についてほとんど言及していない基本書さえあります。近代的憲法本来の姿からすれば、当然の対応なのかもしれませんが、せっかく憲法に書いてあるんだから、平等に取り扱ってあげましょうよ(笑)ってことで、調べ始めた次第です。

前置きが少し長くなりましたが、中身に入りたいと思います。
まずは、世界史的視点にたって、憲法と義務の係わり合いについてメモっていきたいと思います。



1.憲法と義務の歴史

人権宣言は権利を保障する条項のみならず、一七八九年フランス人権宣言以来、若干の基本義務(単に義務とも言う)を定める規定を含む場合が少なくない。しかし、時代により国により、憲法の定める義務の性質や内容には大きな違いもある。*2

ということで、芦部氏の『人権総論』を基に、憲法の基本義務について簡単にまとめます*3

近代的な憲法の思想的基盤となった「社会契約論」は、国家社会を権利と義務の関係によって構成したので、国民の義務の理念もまた自然法的に捉えられました。典型例としては、フランスの共和暦三年憲法(1795年)に付せられた「人および市民の権利義務の宣言」が挙げられます。その宣言には九か条の義務規定が置かれたが、国家に対する義務のみならず、他人に対する義務をも含んでいるという特色を有します。

ただ、その後、国家に対する権利が強調されるに伴い、義務規定もまた国家に対する個人の憲法上の義務と構成されるようになります。内容は、国家の近代化・主権国家化の進展や資本主義の発展に対応する形で、防衛(兵役)の義務、納税の義務*4などがあります。19世紀半ばから、教育の義務が登場します。

20世紀に入ると基本義務思想に変化が訪れます。
1919年に制定されたワイマール憲法は、権利には義務が伴うという思想に基づいて国民の基本義務を重視し、それを憲法の明文で規定しています。すなわち、「ドイツ人の基本権および基本義務」と題する人権宣言には、伝統的な兵役の義務、親が子を教育する義務、就学の義務、官吏の国家・憲法に対する忠誠義務などのほかに、義務の平等性、名誉職の仕事を引き受ける義務、国および市町村のために役務に服する義務、土地所有者の土地の耕作・利用の義務などが新しく規定されました。

1949年に制定されたボン基本法では、人権宣言の部分から「基本義務」の文字が消されましたが、子を教育する親の義務、憲法に対する忠誠義務などの義務条項がおかれています。


以上が、西欧とかドイツの憲法の基本義務に関する簡単なメモです。

各国の憲法典や人権宣言にも義務に関する規定って随分あるもんですね。あと、日本国憲法納税の義務や教育の義務ってのは「19世紀」的な義務にあたるようです。

次からは、いよいよ日本国憲法の義務規定について書いていきますが、長くなったので、今回はここまで。

憲法における義務の規定は、先に触れたとおり、例示に過ぎない。また憲法に一定の義務が定められても、それが法律によって具体化されないかぎり、憲法規定だけで直ちに実効性をもつことはできない。とすれば、憲法にどれだけの義務が定められているかは、とくに重要な意味をもたないであろう。しかし、それでもなお、義務の条項には―以上の素描から推知されるように―人権のあり方、国家のあり方の基本に関わるものが含まれていることに、十分注意しなければならない。*5

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*1:芦部信善『憲法(第三版)』岩波書店、2002年、5頁。今は第四版が出てますが、手元にない。

*2:芦部信善『人権総論』有斐閣、1994年、99頁以下。

*3:芦部氏は、ドイツの憲法を例に素描しています。そのため、以下の文は、旧社会主義諸国の憲法については全く言及しません。そこまで手がまわりません。

*4:納税の義務を果たした者に、選挙権が保障されるという仕組みだそうです。

*5:芦部『人権総論』104頁。